この記事は、事務所だより2023年6月号掲載の記事を再掲(一部加筆)したものです。
ここまで、「年休権」と「時季指定権」、使用者による「時季変更権」の行使、年休取得に対する不利益取扱いなど、法令に関する知識を中心に取り上げてきました。最終回では、年間休日数と年休取得日数の最適なバランスについて考えてみたいと思います。
■日本の企業における年間休日数と年休取得状況
厚生労働省の令和4年就労条件総合調査によると、令和3年1月から12月までの全国3,757社の民間企業における年間休日数と年休取得状況は下表のとおりです。
年間休日数については、1企業平均で107.0日となっています。企業規模別にみますと、最も規模の大きな1,000人以上で115.5日、最も規模の小さな30~99人で105.3日となっています。なお、1企業平均と労働者1人平均の日数に差異が生じていますが、これは計算方法の違いによるものです。
年休取得状況については、労働者1人平均で、付与日数が17.6日、そのうちの取得日数が10.3日となっており、取得日数を付与日数で除した取得率は58.3%でした。企業規模別にみますと、最も規模の大きな1,000人以上で付与日数18.5日、取得日数11.7日、取得率63.2%、最も規模の小さな30~99人で付与日数16.7日、取得日数8.9日、取得率53.5%となっています。なお、「働き方改革」により、平成31年4月から、年休が10日以上付与される労働者を対象に年5日以上の取得が義務づけられました。それに伴い、近年は取得率が上昇傾向にあります。
この調査によると、平均的な日本の企業では、年間休日数は107日、年休取得日数は10日であり、休日と年休を合わせて1年間に117日休んでいることになります。これは1年間の暦日数365日のほぼ3分の1ですので、およそ3日に1日は「お休み」ということになります。企業規模1,000人以上の大企業に限ってみれば、年間休日数116日、年休取得日数12日、合計128日になります。
■日本人は「働き過ぎ」? それとも「休み過ぎ」?
日本では諸外国と比べて労働時間が長く、「働き過ぎ」であると言われていますが、これだけ「お休み」していることを考えると、ちょっと「休み過ぎ」のような気もします。ただし、この調査では、休日出勤をした場合でもあくまでも休日の日数としてカウントしていますので、実際に「お休み」しているとは限らないことに注意する必要があります。
日本では、諸外国と比較して年休取得日数が少なく、取得率も低い傾向にあります。例えば、ドイツやフランスでは、年休の付与日数は30日で、しかもほぼ100%取得されています。これは、欧米ではバカンスという長期休暇を取得する慣習があり、日本にはそれがないことも関係しています。
一方、日本では、諸外国と比較して年間休日数が多いという特徴があります。これは日本の祝日の多さが関係しています。日本では、1年間に16日の祝日がありますが、アメリカ、ドイツ、フランスなど諸外国では10日前後というケースが多いのです。土日の完全週休2日制を採用した場合、年間の休日数は土日だけで104~106日になります。祝日をすべて休日とした場合、そこに16日を加算することになりますので、年間休日数は120~122日となります。日本ではお盆や年末年始、ゴールデンウイークの期間を休日とする慣習がありますので、その場合、年間休日数はさらに多くなります。
逆説的ですが、日本では十分な日数の年間休日が確保されており、お盆や年末年始、ゴールデンウイークなどの連休も設けられているため、労働者には休日とは別に休暇を取ろうとするインセンティブが働きにくく、その結果として年休取得率が伸び悩んでいると考えることもできます。
■年間休日数と年休取得日数の最適なバランスとは?
このような諸事情を踏まえると、日本の企業において、休日と年休の最適なバランスを取るためには、年間休日数をやや減らして、年休取得日数を増やすことが望ましいと考えられます。あくまでも筆者の私見ですが、年間休日数と年休取得日数の最適なバランスの一例を考えてみましたのでご紹介したいと思います。
1か月あたり平均20日の出勤日数を確保することを前提に考えてみます。この場合、年間の出勤日数は240日となります。年間の暦日数365日から240日を差し引くと、残りの日数は125日となり、平均的な企業の休日と年休を合わせた日数を少し上回る水準になります。そのうち、休日は完全週休2日制を採用して105日とし、残り20日を年休として付与するという案はいかがでしょうか?
この場合、法定の上限である20日の年休を入社初年度から全従業員に対して付与することができ、しかも取得率100%を達成することができます。年休取得日は、従業員ごとに勤務カレンダー上であらかじめ指定してもらうことで、業務に支障を来さないよう計画的に取得させることができます。
繰り返しますが、これはあくまでも筆者の私見による一例ということでご理解頂ければと思います。休日と休暇の最適なバランスについては、各職場の事情により大きく異なると思われますので、それぞれの事情に応じた検討が必要であることは言うまでもありません。
終わり
社会保険労務士 川西 康夫
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