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  • 執筆者の写真川西 康夫

【特集】年次有給休暇の基礎知識(3)使用者による時季変更権の行使

この記事は、事務所だより2023年4月号掲載の記事を再掲(一部加筆)したものです。


■労働者が請求した日に年休を与えないことは違法か?


 労働者が年休を取得するためには、取得日を具体的に指定すること(時季指定)が必要であって、①労働者による時季指定、②労使協定による計画的付与、③使用者による時季指定の三つの方法があることは前回ご紹介したとおりです。

 労働者による時季指定が行われる場合に、その取得日が会社にとって不都合となる場合も考えられます。例えば、受注の増加や納期の集中等により業務が繁忙であるとか、休暇や欠勤等によりすでに欠員が生じているような場合です。その際、労働者が請求した日に年休を取得させないことが認められるのか、ということが問題となります。

 まず、原則として、年休権を有する労働者が請求したにもかかわらず、使用者が年休を与えなかった場合は、労働基準法第39条違反となり、使用者には罰則が適用される可能性もあります。ただし、これはあくまでも年休を「与えなかった」場合であって、労働者が請求した日を別の日に変更して取得させれば違法にはなりません。例えば、ある労働者が月末の30日から月初の3日にかけて5日間の年休の取得を請求したとします。しかし、その職場は月末月初は業務が繁忙であり、代替要員の確保も困難であるため、年休を取得する期間を翌週に変更させ、5日間の年休を取得させたような場合です。この場合、労働者が請求した日には年休を与えていませんが、請求された日数分の年休を別の日に与えていますので違法にはなりません。このように、労働者が請求した時季を変更して年休を与えることを使用者による時季変更権の行使といいます。


■時季変更権行使の要件


 使用者が時季変更権を適法に行使するためには、「事業の正常な運営を妨げる」場合に該当することが要件となります。ここで、時季変更権の法的根拠となる労働基準法の条文を見てみましょう。


労働基準法 第39条第5項

使用者は、(中略)有給休暇を労働者の請求する時季に与えなければならない。ただし、請求された時季に有給休暇を与えることが事業の正常な運営を妨げる場合においては、ほかの時季にこれを与えることができる。


 時季変更権は、事業の正常な運営を妨げる場合に限って行使できるという趣旨ですが、ここでいう事業の正常な運営を妨げる場合に該当することが、時季変更権を適法に行使するための要件になります。裁判例では、事業の正常な運営を妨げるか否かは、事業の規模および内容、担当業務の内容および性質、業務の繁閑、代替要員確保の難易、労働慣行等諸般の事情を考慮して客観的に判断すべきである、としています(大阪高裁 此花電報電話局事件 昭53・1・31)。すなわち、使用者には時季変更権の行使についてある程度の裁量的判断の余地が認められていると考えられます。使用者の立場としては、労働者が請求した時季に年休を取得できるよう配慮することを前提としつつ、職場の状況に応じてやむを得ないと判断した場合は、時季変更権を行使することができるものといえます。

 一方で、使用者が時季変更権を濫用した場合には、その適法性が疑われることになります。具体的には、年休を請求した労働者の業務はそれほど繁忙でないにもかかわらず、会社が繁忙期であることを理由に時季変更権を行使した場合や、代替要員を容易に確保することができるにもかかわらず、それをせずに時季変更権を行使した場合等が考えられます。また、時季変更権を行使するタイミングにも注意が必要です。例えば、就業規則に「年休を取得する場合は2週間前までに申し出ること」という規定があった場合に、規定通り2週間前までに年休取得の申請が出されていたにもかかわらず、取得予定日の直前になって時季変更をしたような場合は、時季変更権の濫用と判断され、違法となる可能性がありますのでご注意ください。


■Q&Aこんなときどうする?


Q 来月末で自己都合退職する予定の従業員が、年休の残日数を消化したいと言ってきました。残日数は20日ありますので、全て消化するとなると来月は1日も出社しないことになります。代替要員もまだ確保できておらず、担当業務の引継ぎも終わっていないのに年休消化で休まれると業務に支障が出て困ります。会社としては年休消化を認めたくないのですが、このような場合、時季変更権を行使して年休消化を拒否することはできるのでしょうか?

A 退職予定日を超えて時季変更権を行使することはできませんので、年休消化を拒否すれば違法になります。


 使用者による時季変更権の行使は、あくまでも別の時季に請求された日数分の年休を与えることを前提としています。したがって、すでに退職予定日が決まっている場合には、退職予定日以降に時季変更して年休を取得させることができませんので、年休消化を拒否することはできません。厚生労働省の解釈例規では、「年次有給休暇の権利が労働基準法に基づくものである限り、当該労働者の解雇予定日をこえての時季変更は行えない」(昭49・1・11 基収第5554号)としています。

 一方で、このような場合にいわゆる年休の「買い上げ」を行うことができるか、ということが問題になります。すなわち、年休を取得させる代わりに、年休の日数分に相当する金額を支払うということですが、退職により権利が消滅した年休を退職後に買い上げることは問題ありません。ただし、事前に買い上げの予約をして年休を取得させないことは違法となりますので注意が必要です。例えば、就業規則や雇用契約書に「退職日において年次有給休暇に残日数があった場合はこれを買い上げるものとする」旨の規定があるような場合であって、この規定により実際に取得を妨げた場合はこれに該当します。


(4)へ続く


社会保険労務士 川西 康夫



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